No.046 廻る寿司

「すし」は漢字で色々な書き方がありますが、正しいのは「鮨」と「鮓」です。
「寿司」というのは「寿を司る」と縁起がいいのでつけられた当て字です。
「すし」は「酸し」を語源としています。

寿司の歴史は古く、紀元前4世紀までさかのぼります。
当時の寿司は、魚を米に漬けて発酵させることによって、魚の保存性を高めた食べ物でした。
数十日〜数ヶ月経ったらで魚をとりだして食べます。米は捨てられていました。
このような寿司は「なれ寿司」と呼ばれています。

なれ寿司は、平安時代に日本に伝来しました。
このことは平安時代の有名な書物、源順が著した「倭名類聚鈔(わみょうるいじゅしょう)」にも載っています。
今も、滋賀のフナ寿司や、奈良のつるべ寿司などが、なれ寿司として有名です。

室町時代後期になると、寿司は魚が完全に発酵する前に食べるようになり、米も捨てずに食べるようになりました。
これが「飯寿司」です。今も北海道の鮭の飯寿司などが有名です。

江戸時代になると、米を美味しく食べるために「早寿司」になりました。
自然発酵ではなく、米に酢を入れることで寿司を作りました。
この頃から、魚以外のものも寿司にのせるようになりました。

そして、明治後期に東京(江戸)で「握り寿司」がつくられるようになりました。
これが現在の寿司の初まりです。
東京湾で取れる魚介やのりを使ってたので「江戸前寿司」と呼ばれ、庶民に親しまれました。
華屋与兵衛の改良で寿司はさらに美味しくなり、江戸の評判の料理となりました。

では、いつごろ全国に広がったのか?
それは大正12年(1923年)の大きな出来事が発端となりました。
1923年9月1日午後11時58分....
相模トラフ沿いの断層からマグニチュード7.9の巨大な地震が発生しました。
関東大震災です。死者9万9千人、行方不明4万3千人、負傷者10万人。
この地震により、江戸の寿司職人は故郷に帰っていきました。
そして、全国に寿司が広まっていったのです。

寿司はのちに高級な食品となって、庶民の手の届かないところまで行ってしまいました。
しかし、それをまた庶民の手の届くようにしてくれたのが回転寿司です。
回転寿司を発明したのは大阪の白石義明さんでした。
1947年に東大阪市の足代で「元禄」という寿司屋を開業しました。
その店は繁盛しましたが、人手が不足していました。

白石さんはある日、飲食店組合の旅行で、ビール工場を見学しに行きました。
そのときに工場内でベルトコンベアーによる流れ作業が行なわれているのを見ました。
ベルトコンベアーとの運命的な出会いです!!
白石さんは1950年にベルトコンベアーを使って調理上から寿司を運ぶ回転式食事台方式を採用しました。
初めは「そないけったいなもん喰う奴なんておらへん」と言う人もいました。

現在、白石さんがはじめた「元禄」は、「廻る 元禄寿司」となり、全国に150店舗もあります。

寿司の歴史を話したら長くなりましたね(^^;
次は寿司屋の業界用語です。
業界用語は、地方によって微妙に違ったりもしますが代表的なものを紹介しようと思います。

ガリ…しょうがのことです。しょうがを噛むと「ガリガリ」と音が鳴るので。
    実は毒消しの作用があります。ちなみに、軍艦巻にはガリを使って醤油をつけるのがプロです。

アガリ…お茶のことを「上がり花」といいます。そこから、お茶のことをアガリというようになりました。
     寿司屋の大半は粉茶です。高級なお茶は寿司とは合わないとのことです。

シャリ…もともと梵語で「遺骨」を意味する「シャリーラ」という言葉です。
     そこから白い米粒は遺骨のようだということでシャリというようになりました。
     米粒のことをシャリではなく、センマツマツという業界もあります。
     センマツ(千松)は伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)という話の中に出てくる人物で、
     「侍の子というものは腹がへってもひもじゅうない」というセリフから、
     空腹の人の代名詞のように使われています。
     空腹の人は米をほしがることから、寿司業界では米のことをセンマツといいます。

サビ…ワサビのことです。

ギョク…卵のこと。「玉子」の「玉」の音読み。

ネタ…タネを逆さに読んだ隠語。寿司屋では寿司の具を意味します。

アオイソ…紫蘇のこと。青紫蘇という種類の紫蘇が主に使われる。

ムラサキ…醤油のことをムラサキといいます。
       寿司屋の醤油はニキリと呼ばれる特別な醤油です。
       ニキリは煮切り醤油のことで、醤油にみりんと酒を入れ、昆布や鰹節で裏ごししたものです。
       ニキリにつけこんだマグロの赤身をズケといいます。

エンソ…寿司に塩素が入ってるわけではありません。ご安心を。
     エンソは従業員の食事のことです。漢字で塩噌とかき、塩は塩漬け(漬物)、噌は味噌汁のことです。

ジンガサ…太巻やちらし寿司に使うシイタケのことです。
       足軽や雑兵が戦で、かぶとの代わりにかぶった笠を、陣笠といいます。
       それがシイタケに似ていることからジンガサと呼ばれています。

アニキ…寿司屋で古い寿司を指すときの言葉です。
      新しい寿司はオトウトと呼ばれます。
      古いって言っても、ちゃんと食べれるものなのでご心配なく。

ヤマ…山を登ったら、それより上には何もありません。転じて、何もないことを意味します。
    そこから、「ヤマにする」で「捨てる」ということを意味します。

本格的な寿司屋だと、業界用語を使いまくっています。
値段を言うときに「ソクセイバンドガレン」のようにいうところがあります。
これぞ、寿司屋の数字の業界用語です!!

0=ヤマ
1=ピン
2=リャン(ノノジ)
3=ゲタ
4=ダリ
5=メノジ
6=ロンジ
7=セイナン(セーナン)
8=バンド
9=キワ
10=ピンマル(ソク)
11=ピンピン(ナラビ)
12=チョンブリ
13=ソクキリ
14=ソクダリ
15=ソクメ(アノ)(アーノ)
16=ソクロン
17=ソクセイ
18=ソクバン
19=ソクキワ
20=リャン(ノ)
22=ノナラ
25=オツモ
35=ゲタメ
45=ダリガレン
55=メナラ
…5=ガレン
同じ数字が二つ並ぶ…ナラ

1800円は「ソクバン」、2200円は「ノリャン」、12500円は「チョンブリガレン」。
3300円は「ゲタナラ」、14500円は「ソクダリガレン」、6600円は「ロンジナラ」。

普通、寿司屋では100円単位で言うのですが、
消費税制度の導入により、中途半端な値段になることもあります。
2520円は「オツモリャン」、5565円は「メナラロンジガレン」。

このようなわかりづらい暗号を使うのは、お客さんに値段が悟られないようにするためです。
最近、全国的に寿司屋のチェーン店がありますが、アルバイトの人とかにわかりづらいので、
このような数字の業界用語は使っていないところも多いです。

ここで紹介した業界用語はあくまでも一例です。
寿司屋によって使い方などが違いますので。

業界用語は、あくまでも業界内で使われる用語です。
調子に乗って、業界用語を客が使うと、店に嫌がられます。
まぁ、サビやシャリなど、よく使う言葉もありますがね。

ちなみに寿司屋でよく聞く「1貫」とは、寿司2つのことです。2つで1貫なんです。
元々1貫とされていた大きさは一口で食べるには大きかった為、
食べやすいサイズの2つに分割して1貫分を提供するようになったことから、2つで一貫とされてるんですね。
なお、巻き寿司の場合は、現在の握り寿司2つの分量程度を一貫と計数し、それぞれは1個、2個と計数します。
昭和後期から知識不足の回転寿司店の進出などにより間違った計数方法が蔓延してしまい、
1つを1貫と計数する店がますます増えて混乱しているのが現状のようですが。

シャリ(寿司屋の米)は、オトウトの米(新米)とアニキの米(古米)を混ぜてるって知ってましたか?
古米を処分するために、新米に混ぜているという卑怯な手段ではなく、
新米は水分が多いので、古米を混ぜて調整しているという訳です。

そういえば、11月1日って何の日か知ってますか?
寿司の日です!
1961年に全国すし商環境衛生同業組合連合会が制定しました。
この日は、新米が出回る季節だし、魚介類も旬だということで。

寿司って奥が深いですな。

since 2004/2/11
(リャンヤマダリ/リャン/ナラビ)
2005/10/15 花井氏の指摘により「1貫」について詳しく記述。

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