No.073 北向地蔵

滋賀県には、「日本で唯一、北を向いている地蔵がある。」
そんな話を友人から聞きました。

そこで、実際にインターネットで調べてみました。

その地蔵の最寄の駅である、京阪石山坂本線錦駅の駅員さんのインタビューがありました。
このインタビューによると、北向地蔵は隠れた名所で、やはり日本で唯一北向きだそうです。
(参照:keihan-o2.comさま > o2stations > 錦駅)

また、大津市の隠れ名所紹介でも、日本で唯一北向きと書かれています。
(参照:ぶらり宝物探しさま > 昭和町の北向き地蔵

そんなに珍しいなら、ぜひ行ってみようと思い、
2005年4月14日、友人のタンタル氏と一緒に、現地調査に行ってきました。

大津市昭和町の路地を進み、何やら古そうなところを見つけました。

早速、敷地内に入ってみました。

北向地蔵尊です。

参拝客が多く、線香の煙が絶えず漂っています。
社の中に本尊。それを取り囲むように四方に地蔵が置かれています。
北向地蔵は、合格祈願や快癒など、様々なことにご利益があるようです。
西側には、井戸水があり、その水で薬を飲むと病気に効くらしいです。(薬の効果のような気もしますが)
本尊は目をつぶっているため、目にも良いと言われています。

北向地蔵(本尊)は、西暦1200年ごろから、この地に鎮座しているそうで、
800年間も人々を救済してきたという、歴史の長い地蔵です。

中には、おみくじがありました。
管理人FWが、おみくじをやってみると、「1」と書いた棒が出てきました。
おみくじの上にかかっている額を見ると、「1」は「大吉」だそうです。
どうやら10番まであるそうです。ちなみにタンタル氏は「凶」でした。

地蔵の写真をとっていると、参拝客のおばあさんが、
「地蔵さんに興味あらはるんか?」と話しかけてきてくださいました。

右側のピンクの服を着たおばあさんです。

おばあさんの話によると、この社の周囲の地蔵は、あとから参拝客が奉納したものだそうです。
もともとはこの地蔵だけだったとか。

おばあさんによると、おみくじは3回までやっていいそうです。
但し吉が出たら、そこで終了だそうです。優しいルールですね。
((タンタル氏は、1回目が凶でしたが、2回目は吉でした。

おばあさんが、親切にも、地蔵の拝み方を教えてくださいました。

@賽銭箱に5円玉を入れる。(御縁があるようにという意味がある)
A胸の前で合掌し、三礼。
B御真言を、三唱。
Cおりんを2回鳴らす。(ここの場合、3つあるので、計6回鳴らす)
D胸の前で合掌し、三礼。

御真言とは、2つ上の写真の中央にも載ってるのですが、
おんかかかびさんまえいそわか」という謎の言葉です。

FW「この御真言には、どのような意味があるのでしょうか?
おばあさん「御真言を言うと、お地蔵さんがここに来てくれはるんや
       『おん かーかーかー びぃ さんまーえい そーわか』と言えば言いやすいで

・・・御真言を唱える行為の意味を教えてくださいました。
御真言の謎の言葉自体の意味が知りたかったんですが。

さて、今回の現地調査では、おばあさんの協力によって、
北向地蔵について、いろいろと知ることができました。ありがとうございます。
ちなみに、今回お世話になったおばあさんは、毎日欠かさず参拝しているそうです。

のちほど、地図でこの場所を確認してみると、
ちゃんと真北を向いていました。(参照:北向地蔵尊 滋賀県大津市昭和町14-4

では、他の地蔵は本当に真北を向いていないのでしょうか?
管理人FWが、大津市・草津市を駆け回り、地蔵を探してきました。
((地蔵は地図に載っていないので、探すのが大変でした^_^;

 
大津市・某民家前 北東向地蔵   大津市・某ビル前 南向地蔵
     
 
大津市・某駐車場内 北東向地蔵   大津市・某団地前 北東向地蔵
     
 
大津市・某踏切前 北西向地蔵   大津市・某駐車場横 南向地蔵
     
 
大津市・某民家内 西向地蔵   草津市・某映画館前 東向地蔵
     
 
草津市・某路地裏 南向地蔵   草津市・某児童公園内 西向地蔵

しかし、検索エンジンで「北向地蔵」と検索すると、たくさんヒットします。

というわけで、日本には「北向地蔵」と呼ばれる地蔵が、少なくとも400体はあります。
つまり、滋賀県にある北向地蔵は、"日本で、唯一北を向いている"わけではありません。

「な〜んだ、そんなに北向地蔵があるのかよ。」とか思わないで下さい。
全国には500万体以上の莫大な数の地蔵が存在します。
そのうち、北向地蔵はごくわずかで、とても貴重なのです。

日本の仏像の中で、最も多いのが、地蔵です。
あらゆるところでお目にかけますよね。
なんでこんなに地蔵があるのか。地蔵の起源から紹介します。

仏教は、約2500年前に古代インドで提唱されました。
その開祖である釈迦が、紀元前356年2月15日に病によって入滅しました。享年80歳。
釈迦が入滅してしまってからは、現世は無仏となっています。
弥勒菩薩が、釈迦の後継者として現世を救いにくるはずなのですが、
現在、兜率天(とそつてん)というところで修行中で、
現世に下りてくるのは、釈迦入滅の56億7000万年後とのことです。
つまり、西暦56億6999万645年までは、現世に仏がいない状態となります。
(ちなみに太陽系の寿命は約50億年後)

そこで、無仏期間の救世主として信仰されてきたのが、地蔵菩薩です。
梵語では、Koitigarbha(クシティガルバ)という名で、
Koitiは大、garbhaは胎を意味します。

この地蔵信仰が日本に伝わったのは、奈良時代のこと。
しかし、当初はそれほど地蔵信仰が盛んではありませんでした。

平安時代になり、末法思想が人々の間に広まりました。
そして、現世では救済を求める対象、来世では浄土往生を願う対象として、
地蔵信仰が盛んになりました。

こうして地蔵は全国各地にどんどん置かれました。
現代、どんどん建物が建てられ、町の姿が変わってきています。
しかし、さすがに地蔵は取り壊すわけにはいきません。
だから、平成の世になった現在も、多くの地蔵が残っているわけです。

地蔵に祈ると、どのような御利益があるのでしょうか。

地蔵菩薩本願経嘱累人天品第十三 七益
地蔵菩薩本願経地神護法品第十一 十益
地蔵菩薩本願功徳経囑累人天品第十三 二十八益...

さまざまな御利益が、書物に記されていますが、
今回は『
地蔵菩薩本願経地神護法品第十一 十益』を紹介します。

一 土地豊穣す
二 家宅永く安し
三 先亡、天に生ず
四 現存には寿を増す
五 求むるところ意を遂ぐ
六 水火の災無し
七 虚妄砕除す
八 悪夢杜絶す
九 出入には神の護あり
十 多く聖因に遇う

このように地蔵は人々を救ってくださります。
しかし、地蔵の活躍はそれだけではありません。

冥土の旅のときに通る三途の川ですが、その河原は賽の河原といいます。
賽の河原では、親より先に死んだ子供たちがいます。
親より先に死ぬということは、親に悲しみを与えるので、仏教界では重罪です。
だから、子供たちは父母供養のために川原の石を積み上げつづけています。
「一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため...」と言いながら。
しかし、どんどん積み上げると鬼がやってきて、容赦なく積み上げた石をばらばらにします。
その恐ろしさに子供たちはおびえます。

そのときを子供たちを慰めてくれるのが地蔵菩薩です。
しかし、地蔵菩薩は子供たちを強く育てるために、
慰めるだけで、悪い鬼を殺すことはしません。(参照:雑学見聞録No.048「冥土の旅のしおり」

 

人は、死ぬと、生まれ変わって、六つの道のうちのどれかに行くことになります。
そして、また死ぬと、また生まれ変わります。これを永遠に繰り返します。
これが「輪廻転生」です。

生まれ変わってから行く、六つの道というのが、
地獄道餓鬼道畜生道修羅道人道天道です。
どれに行くかは、生前の行いによって変わります。(参照:雑学見聞録No.048「冥土の旅のしおり」

地獄道は、いわゆる地獄。
餓鬼道は、餓えと渇きに苦しむ世界。
畜生道は、弱肉強食の苦の世界。
これらが三悪道と呼ばれています。

修羅道は、闘争の絶えない世界。
人道は、現在いる世界。
天道は、いわゆる天国。快楽極まりない世界。
これらが三善道と呼ばれています。

どの世界にでも、苦しみはあります。
そこで、助けてくれるのが、これまた地蔵菩薩です。
地蔵は、現世(人道)だけでなく、六道全てを回って、衆生(=六道を輪廻する存在)を救います。

特に地獄道では、とても惨い罰を受けます。
地獄道でさえ、地蔵が救いの手を差し伸べてくれます。
これを地獄に仏といいます。

また、餓鬼道では、衆生は常に餓えや渇きに苦しみます。
餓鬼には、有財餓鬼(うざいがき)と無財餓鬼(むざいがき)がいます。
前者は、食べることができるのですが、どれだけ食べても満足しない餓鬼。
後者は、食べものが舌で燃えてしまい、食べることができない餓鬼。
どちらにしても、餓えと渇きに苦しみつづけます。
地蔵の足元は餓鬼道とつながっていると言われていて、
地蔵に水を注ぐと、餓鬼がそれを飲むことができます。
しかも、地蔵からの水は、餓鬼でも飲むことができ、渇きをうるおせます。

さて、「地蔵は六道の衆生を救済する」という信仰に基づいて、つくられたのが、
六地蔵です。葬儀場や墓地でよく見られます。
地蔵がいくつも並んでいる場合、大抵が6体です。
童話「かさじぞう」に出てくる地蔵も6体です。

実際に、六地蔵を探しに、墓地まで行ってきました。

墓地の入り口に早速ありました、六地蔵。
六道へと旅立つ衆生を守ってくださっています。


六地蔵には、それぞれ名前がついています。
地獄道で救いをする、大定智悲地蔵(だいじょうちひじぞう)。
餓鬼道で救いをする、大徳清浄(だいとくしょうじょう)。
畜生道で救いをする、大光明(だいこうみょう)。
修羅道で救いをする、清浄無垢(しょうじょうむく)。
人道で救いをする、大清浄(だいしょうじょう)。
天道で救いをする、大堅固(だいけんご)。
同順で、檀陀地蔵、宝珠地蔵、宝印地蔵、持地地蔵、除蓋障地蔵、日光地蔵と称する場合や、
金剛願地蔵、金剛宝地蔵、金剛悲地蔵、金剛幢地蔵、放光王地蔵、預天賀地蔵と称する場合もある。
しかし、ほとんどの六地蔵が、それぞれの姿に変わりがないので、
見た目だけで、どの地蔵がどの道を救う地蔵かは判別できません。

ちなみに、地蔵はもともとインドでは財宝を司る神でした。
なお、地蔵のことを英語では、そのまま「Jizo」といいます。

地蔵は水子供養としても有名です。(水子とは、流産・中絶などの理由で生まれる前に無くなった子)
水子供養の地蔵は、ほとんどが赤いよだれかけをしています。
子供を無くした親が、供養のために、
子供の匂いのするよだれかけを地蔵にかけたのが始まりです。

また、よだれかけが赤い理由ですが、赤は「生命」を表わしています。
赤は血の色。「赤ちゃん」「赤ん坊」「赤子」というように、血色に満ち、生命力がみなぎった状態を表わします。
だから、赤色は水子が生まれ変わって、新たな生命を手に入れるようにという意味があります。
ちなみに、子供の成長を祈るときには、地蔵に白いよだれかけをします。

簡素な地蔵ではなければ、地蔵は両手にものを持っています。
一般的には、右手に錫杖(しゃくじょう)、左手に宝珠(ほうじゅ)です。

錫杖は、僧が遊行するとき携帯する杖です。
頭部はスズでできていて、数個の環(たまき:輪形の装飾品)がついています。
毒蛇などの害から逃れるため、揺すって音を立てて歩きます。

ちなみに、四国八十八ヶ所の最終地点である大窪寺では、モニュメントとして、
高さ11mの巨大な錫杖があります。

宝珠は、タマネギのような形の宝石で、
あらゆる願いを叶えることができる玉です。

説明だけでは、イメージしにくいので、本当は写真を掲示したいのですが、
あいにく適当な写真がないので、CGをつくってみました。

 
錫杖【しゃくじょう】   宝珠【ほうじゅ】

ちなみに、宝珠をかたどった飾りで「擬宝珠」(ぎぼし)というものがあります。
これは、欄干(橋の手すり)の柱頭によく付いています。

そういえば、北向地蔵の参拝の際に唱えた「おんかかかびさんまえいそわか」の謎が、
まだ解けていませんでしたね。
これについて調べてみたところ、他にも似たような言葉が見つかりました。

一、不動明王 のうまくさんまんだ ばざらだん せんだ まからしゃだ そわたや うんたらた かんまん
二、釈迦如来 のうまくさんまんだ ぼだなん はく
三、文殊菩薩 おん あらはしゃのう
四、普賢菩薩 おん さんまや さとばん
五、地蔵菩薩 おん かかか びさんまえい そわか
六、弥勒菩薩 おん ばいたれいや そわか
七、薬師如来 おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
八、観世音菩薩 おん あろりきゃ そわか
九、勢至菩薩 おん さんざんざんさく そわか
十、阿弥陀如来 おん あみりた ていぜいから うん
十一、阿しゅく如来 おん あきしゅびや うん
十二、大日如来 おん あびらうんけん ばざら だとばん
十三、虚空蔵菩薩 のうぼう あきゃしゃ ぎゃらばや おんありきゃ まりぼり そわか
※阿しゅく如来の「しゅく」は、「閃」の「人」の下に「人」を横に二つ書いた字です。

これらを全て合わせて、「十三仏真言」(じゅうさんぶつしんごん)といいます。

それぞれに意味があるみたいですが、今回は地蔵がメインだということで、
「おんかかかびさんまえいそわか」のみを紹介します。

この謎の言葉、やはり梵語が元になっているみたいです。
原語は「Om. ha ha ha vismaye svaha」。
          ↓
「Om(=おん)。ha ha ha(=ははは) vismaye(=稀有なる徳を有する御身よ) svaha(=ソワカ)」
          ↓
「帰命したてまつる。ハハハ 稀有なる尊よ あなかしこ」
          ↓
お地蔵様にすがらせてもらいます。ハハハ(笑) 貴重なお地蔵様 つつしんで申し上げます。

なんとも響きが良かった「かかか」ってのは、笑い声だったんですね。((御真言に笑い声ってのもどうかと・・・。

 

そういえば、北向地蔵尊の北側にある地蔵をみて、不思議に思ったことがあります。

 

よく見てください。

 

もっとアップで。

 

なんと、「卍」の向きが逆なんです。
私、これを見つけたとき、非常に驚きました。
だって、逆卍といえば、ナチスのシンボルマークだからです。

 

 

しかし、ナチスのシンボルマークは、逆卍でも、45度傾いた「鍵十字」(図右)です。
欧米では、「Hakenkreuz」(ハーケンクロイツ)と言います。

寺院の地図記号にもなっている卍(左万字、表万字)は、
「太陽の恵み」「豊作を呼ぶ雷」「気の流れ」
「四季,太陽,天体の動き」「子孫万代」などを表わしています。
※太陽の恵み・・・卍は、太陽の光の放射を表わしている。
※子孫万代・・・卍は、ひょうたんのツルを表わしている。

卍は、さまざまな宗教に出てきます。
インドのヒンドゥ教やジャイナ教では、吉祥の印とされ、
チベットのボン教のシンボルマークや、
北欧神話に登場する雷神「トール」のシンボルマークになっています。
そして、仏教では、仏陀の胸や手足に表れた瑞相(ずいそう:めでたいしるし)とされています。

仏教では、卍を「慈悲と愛」の象徴、逆卍を「力と理性」の象徴としています。
だから、寺院など仏をまつるところには、人々を救う仏の「慈悲と愛」を表わすために、
卍が用いられているわけです。

しかし、のちにヒンドゥ教で、
卍は、太陽の動きと逆回転なので、「死」の象徴とされました。

そこで、日本では、逆卍を使っている場合もあるのです。

 

── 町角で地蔵を見かけたら、一度足を止めてみてください。

since 2005/4/25
2005/4/25 「実際に、六地蔵を探しに、墓地まで行ってきました。 〜 判別できません。」を加筆。

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